「また工藤」が阪神連覇を支えた。工藤泰成を55登板・防御率0.92・FIP1.25で徹底検証
※本記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。
30秒で分かる、工藤泰成の2026年
- 0155登板で防御率0.92、被本塁打0
3勝0敗11セーブ13ホールド。55登板のうち49登板で、工藤本人に失点が記録されなかった。
- 02投球回は約3.6倍、四球は13から14
前年16回1/3で13四球だった投手が、今季は58回2/3で14四球。奪三振率(K%)も22.2%から33.3%へ上がった。
- 03空振りを取った主役はカット
平均157.9km/hの直球に目が行くが、カットは打者がスイングしたときの48.3%が空振り。40投球回以上ではFIP・xFIP・tRAがいずれも1位。
- 047連敗の後、8登板9回0失点
9月17日から10月1日まで8登板9回、16奪三振・1四球・0失点。ゲーム差0の9月21日は2回32球を投げ、翌日も翌々日も投げた。
- 05「疲れない超人」ではない
4連投目には本人も疲れに触れ、前日登板ありの日はK%が低めだった。厳しい起用の中で失点を抑え続けたことを評価する。
FIP・xFIP・tRA・K%・BB%・WAR・球種データなどの指標は、NPB BASEMENTの2026年10月2日保存値(シーズン累積)です。保存日ごとの値の差は、その間の試合だけの効果としては扱いません。「40投球回以上」はこの記事独自の比較条件で、公式の規定投球回ではありません。Whiff%は「空振り数 ÷ スイング数」で、投げた球のうち何%が空振りだったか、ではありません。「24イニング連続奪三振」は報道による記録で、各イニングに最低1つ以上の三振を奪ったという意味です(24打者連続三振ではありません)。
2026年の阪神ファンなら、一度や二度ではなく、何度もこう思ったはずだ。
「また工藤か。」
9回も工藤。延長も工藤。翌日も工藤。その翌日も工藤。最後の巨人戦でも工藤。
阪神は9月に7連敗し、巨人に0.5ゲーム差まで迫られた。一度は持ち直したが、9月19日にはついにゲーム差0。そこから阪神は踏みとどまり、10月3日に2年連続のリーグ優勝を決めた。その苦しい期間に、何度もマウンドへ上がっていたのが工藤泰成だった。
工藤は2026年、55試合に登板して防御率0.92。そして9月17日から10月1日まで、8登板9回を投げて16奪三振・1四球・0失点。優勝が決まった今、「また工藤」という言葉の意味は少し変わって見える。この記事では、その2026年を数字で順番に確かめていく。
01工藤泰成、55登板で防御率0.92
まず、シーズンの成績から。
| 項目 | 2026年 |
|---|---|
| 登板 | 55 |
| 勝敗 | 3勝0敗 |
| セーブ / ホールド | 11セーブ / 13ホールド |
| 投球回 | 58回2/3 |
| 奪三振 / 四球 | 77 / 14 |
| 被本塁打 | 0 |
| 防御率 | 0.92 |
55試合投げて、防御率0点台。しかも本塁打を1本も打たれていない。これだけでも十分に目を引く。
指標で見ても同じ傾向だ。NPB BASEMENTの10月2日保存値では、WAR2.1、FIP1.25、xFIP1.84、tRA1.05。K%(打者に対する奪三振の割合)33.3%、BB%(与四球の割合)6.1%、K-BB%27.3%、GB%(ゴロの割合)65.7%。登板時の平均的な重要度を示すgmLIは1.3だった。
ただし本当に面白いのは、防御率や被本塁打0だけではない。前年からの変化と、空振りを奪った球種、そして優勝争いの終盤にどう使われたかを見ていく。
02前年13四球→今季14四球。それでも投球回は約3.6倍
一番分かりやすい成長は四球だ。2025年は16回1/3を投げて13四球。2026年は58回2/3まで投げて14四球。投球回は約3.6倍になったのに、四球は1つしか増えていない。
| 指標 | 2025年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 投球回 | 16回1/3 | 58回2/3 |
| 奪三振 | 16 | 77 |
| 四球 | 13 | 14 |
| K%(奪三振率) | 22.2% | 33.3% |
| BB%(与四球率) | 18.1% | 6.1% |
| K-BB% | 4.2% | 27.3% |
投球回は約3.6倍になり、四球は1つだけ増えた。2025年は16回1/3という小さなサンプルのため、「制球難を完全に克服した」とは断定しない。2026年の指標はNPB BASEMENTの10月2日保存値(シーズン累積)。
さらに大事なのは、「四球を減らしただけ」ではないことだ。奪三振率(K%)も22.2%から33.3%へ上がっている。ストライクを置きに行く投手に変わったのではなく、三振を取る力を伸ばしながら、四球を大きく減らした。K-BB%は4.2%から27.3%になった。
ただし2025年は16回1/3という小さなサンプルだ。この比較から「制球難を完全に克服した」「来季も必ず同じ水準」と言うことはできない。言えるのは、2026年の工藤が多く投げながら四球を出さず、三振を奪っていたということまでだ。四球が減った具体的な原因も、今回のデータでは検証していない。
03160キロだけじゃない。カットのWhiff%48.3%
工藤といえば、まず160キロ近い直球が浮かぶ。フォーシームの平均球速は157.9km/h。たしかに大きな武器だ。ところが空振りという点で見ると、主役は別の球種だった。
| 球種 | 使用率 | 平均球速 | Whiff% | xPV |
|---|---|---|---|---|
| フォーシーム | 38.2% | 157.9km/h | 17.0% | +0.6 |
| カット | 41.7% | 141.4km/h | 48.3% | +9.0 |
| フォーク系 | 16.9% | 144.4km/h | 40.2% | +3.4 |
※主要3球種の使用率の合計は96.8%。Whiff%は「空振り数 ÷ スイング数」。
※投げた球の48.3%が空振りになったのではなく、打者がカットをスイングしたときに48.3%が空振りになった、という意味。
カットは使用率41.7%と最も多く投げた球種で、Whiff%は48.3%。打者がカットをスイングしたとき、48.3%が空振りになった。フォーク系も40.2%と高い。直球の17.0%と比べると、空振りを奪う役割はカットとフォーク系が担っていたことが分かる。
カットはどう変わったか
5月12日保存値と10月2日保存値で、カットを比べてみる。
| 指標 | 5/12保存値 | 10/2保存値 |
|---|---|---|
| 投球数 | 52球 | 386球 |
| 平均球速 | 138.4km/h | 141.4km/h |
| Whiff% | 38.1% | 48.3% |
| SwStr% | 15.4% | 22.5% |
| xPV/100 | 2.8 | 2.3 |
| 累積xPV | +1.5 | +9.0 |
空振り率と平均球速は上がった。一方で、累積xPVが+1.5から+9.0に増えたのは投球数が増えた影響もある。100球あたりのxPVは2.8から2.3なので、「カットの全指標が改善した」とは言わない。
それでも10月2日時点で、カットを100球以上投げた76投手の中では、Whiff%・CSW%・Grade・xPV・xPV/100がいずれも1位、SwStr%が2位だった。シーズン序盤から全部の数字が右肩上がりだったわけではないが、優勝直前の時点で、工藤のカットがNPBでも最上位クラスの武器だったことは確認できる。カットがなぜ空振りを取れるのか(変化量・コース・配球など)は、今回は検証していない。
0440投球回以上でFIP・xFIP・tRA1位
2026年のNPB一軍で40投球回以上を投げた135投手の中で、工藤の順位を並べる。40投球回はこの記事独自の比較条件で、公式の規定投球回ではない。
| 指標 | 工藤 | 順位 |
|---|---|---|
| FIP | 1.25 | 1位 |
| xFIP | 1.84 | 1位 |
| tRA | 1.05 | 1位 |
| K-BB% | 27.3% | 2位 |
| K% | 33.3% | 3位タイ |
| GB% | 65.7% | 2位 |
| WAR | 2.1 | 23位タイ |
三振を取れる。四球が少ない。打球になってもゴロが多い。この3つが同時に出ているのが、工藤の投球内容の特徴だ。
「被本塁打0だから、FIPだけ良いのでは?」
当然の疑問だ。被本塁打0はFIPに有利に働く。そこで、本塁打の出方を平均的な水準に寄せて見るxFIPも確認すると、40投球回以上ではxFIP1.84で1位だった。比較の線を20投球回・30投球回・50投球回に動かしても、FIPとtRAは1位のまま、xFIPも1位か2位にとどまる。
さらに深掘り:比較条件を変えると順位はどう動くか
投球回の線を動かした感度確認
| 比較条件 | FIP | xFIP | tRA |
|---|---|---|---|
| 20投球回以上 | 1位 | 2位 | 1位 |
| 30投球回以上 | 1位 | 2位 | 1位 |
| 40投球回以上 | 1位 | 1位 | 1位 |
| 50投球回以上 | 1位 | 1位 | 1位 |
線を下げると、少ない投球回で好成績の投手が入ってくるためxFIPが2位に下がる。それでもFIPとtRAはどの条件でも1位だった。特定の線の引き方だけで1位になっているわけではない、というのがこの確認の意味だ。
WARは23位タイ。だから「NPBで最も貢献した投手」とは言わない
一方でWAR2.1は、先発投手を含めた比較では23位タイだ。WARは投げたイニングの量も含む総量の指標で、救援投手は先発より投球回が少ない。率で見た投球内容は非常に優秀だったが、年間の総量まで含めて「NPBで一番の投手」とまでは言えない。
0555登板中49登板で「本人の失点0」
55登板のうち、工藤本人に失点が記録されなかった登板は49。割合にすると89.1%。およそ9割の登板で、工藤自身は点を与えていない。
ここでの「失点0」は、工藤本人に記録された失点の話だ。登板した試合でチームが無失点だったという意味ではない。
064連投4セーブ。それでも“疲れない超人”ではない
2026年の工藤は55登板、総投球数940球。2イニングを投げた登板が5試合、最大4連投。代表的な長い連投は、5月26〜28日の3連投、7月31日〜8月2日の3連投、8月27〜30日の4連投、9月21〜23日の3連投だった。
「回またぎが当たり前」だったわけではない。2イニング登板は5試合だ。正確には、必要な試合では2イニングを任され、翌日にも登板したという使われ方だった。
8月末、4日連続登板・4日連続セーブ
8月27日の中日戦から、8月30日の巨人戦まで。工藤は4日続けて登板し、4日続けてセーブを挙げた。最後の3試合は首位を争う巨人との3連戦だった。
※Sはセーブ。4連投目の8月30日が最も多い25球で、この日に1失点した。
4日目の8月30日は25球を投げて1失点。本人も「少し疲れはあった」という趣旨のコメントをしたと報じられている。「疲れなかったから凄い」のではない。疲れがある状況でも勝負どころを任され、試合を締めたことを評価したい。
前日にも投げた日の成績
前日にも一軍で登板していた日の工藤は、17登板17回で2自責点、防御率1.06。連投の日でも失点は少ない。ただし奪三振率は違いが出ている。
結論前日にも一軍で投げた日は17登板17回で2自責点、防御率1.06。失点は抑えたが、奪三振率は前日登板なしの日より低めだった。
相手・点差・登板時期・直前の球数・打者の質を調整していない比較。「疲労で三振率が落ちた」とも「連投しても内容が全く変わらない」とも言えない。
前日登板ありの日はK%25.0%、前日登板なしの日は36.8%。前日に投げた日のほうが奪三振率は低めだった。ただしこの比較は、相手・点差・登板時期・直前の球数・打者の質を調整していない。「疲労で三振率が落ちた」とは断定できないし、逆に「連投しても全く内容が変わらない」とも言えない。この記事が評価するのは、厳しい起用を担いながら、その中で失点を抑え続けたことだ。
077連敗の後、8登板9回16K・1BB・0失点
ここからが、優勝争いの終盤だ。7連敗の後の9月17日から10月1日まで、工藤は8試合に登板した。登板日は9月17日、18日、21日、22日、23日、26日、30日、10月1日。
- 9/17失点0
7連敗の後の登板。阪神が勝った試合。
- 9/181回1K・失点0
2-1、1点リードの9回に登板してセーブ。
- 9/212回32球4K・失点0
巨人とゲーム差0のまま迎えた2-2の9回から10回まで。公式記録はホールド。
- 9/221回18球2K・失点0
延長11回裏、9-7の2点リードで登板。11セーブ目。
- 9/231回17球2K・失点0
3連投目。直球はすべて155km/h以上だったと報じられた。
- 9/26失点0
阪神が勝った試合で登板。
- 9/3013球2K・失点0
翌日の巨人戦の前日にも登板。
- 10/11回22球2K・失点0
今季最後の巨人戦、2-2の延長10回。1四球を出しながら連続三振で締めてホールド。
読みどころ8登板9回、146球、16奪三振、1四球、0失点。同じ期間の阪神は8勝2敗1分で、工藤は阪神が勝った7試合と10月1日の引き分けで投げた。
「工藤が7勝を生んだ」という意味ではなく、阪神が立て直した期間に繰り返しマウンドへ上がっていたという登板の記録。9月17日・26日の個別の投球回・球数は資料に記載がないため省略した。
合計8登板、9回、146球、16奪三振、1四球、0失点。この期間の阪神は8勝2敗1分で、工藤は阪神が勝った7試合と、10月1日の引き分けで投げている。
ここは書き方に注意したい。これは「工藤が7勝を生んだ」という意味ではない。阪神が立て直した期間に、繰り返し工藤がマウンドに上がっていた、という登板の記録だ。勝ちには先発も打線も守備も、ほかの救援投手も関わっている。
また、8登板の重みはすべて同じではない。4点差・5点差の場面での登板もあった。そこで後ほど、登板時に同点か2点以内のリードだった試合だけを切り出す。
08最大の山場はゲーム差0の9月21日
9月19日に巨人とのゲーム差が0になり、そのまま迎えた9月21日のDeNA戦。2-2の9回、工藤がマウンドに上がった。
- 2-2の9回、工藤が三者凡退巨人とのゲーム差0のまま迎えたDeNA戦。↓
- 9回裏に点が入らず、10回表も工藤が続投1イニングで役目は終わらなかった。↓
- 10回表は、牧と三森から三振間に筒香の安打。最後は佐野を三ゴロ。2回32球、1安打4奪三振、無失点。↓
- 11回表は、石井が無失点つないだ投手も0で止めた。↓
- 11回裏、大山悠輔がサヨナラ本塁打ゲーム差は0から0.5へ。工藤の公式記録はホールド。
勝利投手ではなかった。それでも、阪神が勝つまで試合を壊さなかった2イニングだった。
工藤はこの翌日も、さらに翌日も登板した。3日間で4回67球、8奪三振、0四球、0失点。
9回は三者凡退。しかし阪神は9回裏に点が取れない。10回表も工藤が続投した。先頭の牧から三振。筒香に安打を許したが、三森から三振、最後は佐野を三ゴロ。2回32球、1安打4奪三振、0四球、0失点。
11回表は石井が無失点でしのぎ、11回裏に大山悠輔がサヨナラ本塁打。阪神はゲーム差0から、再び0.5差へ戻した。工藤の公式記録はホールドだった。
勝利投手ではなかった。それでも、阪神が勝つまで試合を壊さなかった2イニングだった。9月21日からの3連投を試合の流れごと見たい方は、動画版(YouTube)でもまとめている。
0932球の翌日も、その翌日も工藤
9月22日のヤクルト戦は、延長11回で阪神9-7。セベリーノがピンチをしのぎ、11回表に髙寺が勝ち越し2ラン。その裏、前日に2回32球を投げた工藤が登板し、1回18球2奪三振0失点で11セーブ目を挙げた。全員でつないだ試合の最後を、工藤が締めた。
さらに翌日の9月23日。3連投目も1回17球2奪三振0失点。この日の直球はすべて155km/h以上だったと報じられた。
※3日とも失点0。9月21日はゲーム差0のまま迎えた同点の9回から2イニングを投げた。
9月21日に2イニング32球。翌日も投げ、さらに翌日も投げた。それでも3日間で4回67球、8奪三振、0四球、0失点だった。
接戦4試合だけを切り出すと
終盤8登板のうち、登板時が「同点」か「2点以内のリード」だった4試合を並べる。
| 日付 | 登板状況 | 回 | 奪三振 | 四球 | 失点 | 記録 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 9/18 | 9回 2-1(1点リード) | 1 | 1 | 0 | 0 | セーブ |
| 9/21 | 9回 2-2(同点) | 2 | 4 | 0 | 0 | ホールド |
| 9/22 | 11回 9-7(2点リード) | 1 | 2 | 0 | 0 | セーブ |
| 10/1 | 10回 2-2(同点) | 1 | 2 | 1 | 0 | ホールド |
| 合計 | 89球 | 5 | 9 | 1 | 0 | — |
落とせない接戦で、5回無失点。ただし、この4試合で工藤がチームに何勝分をもたらしたか(WPAによる評価)は計算していない。
10最後の巨人戦でも、直球とカットで連続三振
10月1日、今季最後の巨人との直接対決。工藤は前日の9月30日にも登板し、13球2奪三振0失点だった。この試合は阪神が9回裏に2-2へ追いつき、延長10回表に工藤がマウンドへ上がった。
工藤泰成 10月1日 巨人戦
2-2の延長10回表、1回22球2奪三振1四球無失点でホールド
先頭の松本を投ゴロ、泉口に四球。代打ダルベックを161km/hの直球で見逃し三振、門脇を143km/hのカットで空振り三振。前日の9月30日にも13球を投げていた。
シーズンを通して分析してきた2つの武器、平均157.9km/hの直球と空振りを取るカットが、今季最後の巨人との直接対決でそのまま決め球になった。
球速は報道による。
先頭の松本を投ゴロ。泉口には四球を与えた。続く代打ダルベックを161km/hの直球で見逃し三振。門脇を143km/hのカットで空振り三振。1回22球、2奪三振1四球0失点で、記録はホールドだった。
記事の前半で見てきた平均157.9km/hの直球と、空振りを取るカット。その2つが、最後の巨人との直接対決でそのまま決め球として出てきた。
1124イニング連続奪三振
10月1日の巨人戦で、工藤は報道によると「24イニング連続奪三振」を記録した。江夏豊の23イニングを超える球団記録として報じられている。
意味を正確にしておきたい。これは「24打者連続三振」ではない。24イニング続けて、各イニングに最低1つ以上の三振を奪ったという記録だ。
終盤の工藤は、ただ無失点だっただけではない。毎イニング三振を奪い続けるほど、三振を取る力も保っていた。
12優勝争いの終盤でも、累積指標は崩れなかった
これだけ登板を重ねると、内容が落ちていないかが気になる。NPB BASEMENTの保存値を、9月19日と10月2日で比べてみる。
| 指標 | 7/1保存 | 9/19保存 | 10/2保存 |
|---|---|---|---|
| FIP | 1.76 | 1.49 | 1.25 |
| xFIP | — | 2.11 | 1.84 |
| tRA | 1.47 | — | 1.05 |
| K-BB% | 23.3% | 24.3% | 27.3% |
| RSAA | — | 12.9 | 15.8 |
| gmLI | 0.9 | — | 1.3 |
※「—」はその保存日の値を今回の資料で確認していない項目。
9月19日から10月2日にかけて、FIPは1.49から1.25、xFIPは2.11から1.84、K-BB%は24.3%から27.3%、RSAAは12.9から15.8になった。これは各保存日時点のシーズン累積値で、「連投したから良くなった」「9月21日の登板だけで良くなった」という意味ではない。言えるのは、優勝争いの終盤に登板を重ねながら、シーズン累積の投球内容は大崩れしなかったということだ。
“勝ちパ級の数字”に、役割が後から追いついた
7月1日保存値の時点で、FIP1.76、tRA1.47、K-BB%23.3%。投球内容はすでにかなり良かった。ところが登板時の平均的な重要度を示すgmLIは0.9だった。
その後、8月下旬には守護神級の役割を担うようになり、8月27〜30日の4連投4セーブ。11セーブのうち9セーブは8月21日以降に挙げている。10月2日保存値のgmLIは1.3。8月19日から10月1日までは17登板18回、29奪三振、4四球、1自責点で防御率0.50だった。
数字が先に勝ちパターン級になり、後から役割が追いついてきたシーズンだった。
13なぜ「投手版・近本」なのか
動画では、工藤を「投手版・近本」と呼んだ。この比喩の意味をはっきりさせておきたい。
これは能力のタイプを直接比べた言葉ではない。「近本も工藤も休まず毎日出た」という意味でもない。
- 近本光司:復帰後の優勝争いで出塁し、走り、守る。攻守走で必要な仕事をした。
- 工藤泰成:同点の場面、セーブの場面、回またぎ、連投。必要な局面でアウトを取った。
能力が似ているのではなく、苦しい優勝争いで“必要な場所にいた”存在感が似ている。それが今回の「投手版・近本」の意味だ。近本の秋の数字は、近本光司と2026年秋の逆襲の記事で詳しく見ている。
14阪神、2年連続・通算8度目のリーグ優勝
2026年10月3日。阪神はデーゲームで広島に4-6で敗れ、優勝決定は夜の巨人戦の結果待ちになった。その巨人が敗れ、阪神は2年連続・通算8度目のセ・リーグ優勝を決めた。2リーグ制以降では、球団初のリーグ連覇だ。
工藤の価値は、優勝が決まった日の一瞬にあるのではない。7連敗の後、ゲーム差0になったところから、優勝目前まで何度もアウトを積み重ねたことにある。シーズン全体の流れは、7連敗、0差、それでも勝った。2026阪神、連覇までの全軌跡で振り返っている。
15まとめ 「また工藤」が最後には感謝に変わった
工藤泰成が一人で阪神を優勝させたわけではない。先発も、打線も、守備も、ブルペンも。多くの選手がつないだ優勝だった。
ただ、7連敗で0.5ゲーム差まで追い詰められ、ついにはゲーム差0。一つのアウトの重みが、普段より何倍も大きく感じられた時期があった。そこで、9回も工藤。延長も工藤。翌日も工藤。その翌日も工藤。そして最後の巨人戦でも工藤。
9月17日から10月1日まで、8登板9回、16奪三振、1四球、0失点。55登板のうち49登板で、工藤本人に失点は記録されなかった。前年16回1/3で13四球だった投手は、今季58回2/3を投げて14四球。160キロ近い直球だけでなく、カットは振った打者の48.3%から空振りを奪った。
工藤が凄かったのは、たくさん投げたことではない。たくさん投げて、それでも抑えたことだ。
「投手版・近本」は、能力を直接比べた言葉ではない。苦しい優勝争いで、チームが必要とする場所に何度も現れ、必要なアウトを取り続けた。そういう存在感を表した言葉だ。阪神が踏みとどまった時間を支えた投手の一人だったことは、数字を追ってもはっきり見えてくる。
最初は「また工藤」。最後は、「工藤、よう投げた。ほんまにありがとう。」そんな2026年だった。
16評価の限界
「工藤が阪神を優勝させた」── 言いすぎ。優勝は先発・打線・守備・ブルペンの積み重ね。工藤は優勝を支えた投手の一人。
「工藤がいなければ優勝できなかった」── 検証していない。反実仮想は今回の分析の範囲外。
「何連投でも疲れない」── 違う。4連投目には本人も疲れに触れ、前日登板ありの日はK%が低めだった。
「連投しても内容は全く変わらない」── 言えない。ただし前日登板の比較は相手・点差・時期などを調整していないため、疲労の因果も断定しない。
「回またぎが当たり前」── 違う。2イニング登板は5試合。
「8登板すべて最高の重要場面」── 違う。4〜5点差での登板もあった。接戦は4試合。
「NPBで最も貢献した投手」── 言えない。WAR2.1は先発を含めて23位タイ。FIP・xFIP・tRAの1位は「40投球回以上」という記事独自の条件での順位。
「工藤が7勝を生んだ」── 違う。阪神が勝った7試合に登板した、という事実。
「カットを投げれば半分空振り」── 違う。Whiff%48.3%は、打者がスイングしたときの空振りの割合。
今回の分析では、全55登板の点差・アウト・走者・継承走者まで分類したWPA分析、年間で「何勝分」チームを救ったか、連投が投球内容に与えた因果的な影響、カットや四球率が改善した具体的な原因は検証していない。
17よくある疑問
工藤は結局、守護神だったの?
シーズン後半には守護神級の役割を担い、11セーブを記録した。ただし同点、回またぎ、点差のある9回など、セーブ場面だけに固定された投手ではなかった。
160キロの直球が一番凄いの?
平均157.9km/hのフォーシームは大きな武器。一方、空振りという点ではカットが非常に強く、Whiff%は48.3%。フォーク系も40.2%だった。
FIP1位って、被本塁打0だからでしょ?
被本塁打0はFIPに有利に働く。そのため、本塁打の出方を平均的な水準に寄せて見るxFIPでも確認した。40投球回以上ではxFIP1.84で1位だった。
工藤がNPBで一番良い投手だった?
そこまでは言えない。率で見た投球内容は非常に優秀だったが、WAR2.1は先発を含む比較で23位タイ。年間の総投球量を含めると別の評価になる。
連投しても疲れない?
その結論にはしない。4連投目に本人も疲れに触れており、前日登板ありの日は奪三振率も低めだった。ただし、疲労の因果を証明する比較ではない。
「投手版・近本」ってどういう意味?
能力や出場の形が同じという意味ではない。苦しい優勝争いで、チームが必要とする仕事を複数の形で担った存在感を重ねた比喩だ。
24イニング連続奪三振って何?
24打者連続三振ではない。24イニング続けて、各イニングに最低1つ以上の三振を奪ったという記録(報道による)。
18動画・関連記事
数字だけでは見えにくい「また工藤」の物語は、動画でもまとめています。阪神ファンと指標解説者の掛け合いで、「また工藤」が最後に感謝へ変わるまでを振り返っています。
19SOURCES / 参照データ
- NPB BASEMENT:2026年一軍の投手成績・球種データ(10月2日保存値。比較は7月1日・9月19日・5月12日の保存値)。FIP・xFIP・tRA・K%・BB%・K-BB%・GB%・WAR・gmLI・RSAA・Whiff%・SwStr%・xPV。比較条件はNPB一軍40投球回以上135投手、カット100球以上76投手。
- 阪神タイガース公式:工藤泰成の選手成績、試合別成績。
- NPB公式:2026年度公式戦成績(試合結果、セ・リーグ順位、優勝決定)。
- 報道:9月21日の2イニング登板、9月22日の翌日登板、9月23日の3連投(直球がすべて155km/h以上)、8月30日の4連投と本人コメント、10月1日の巨人戦(161km/hの直球・143km/hのカット)、24イニング連続奪三振。
- 動画版:【阪神連覇の立役者】工藤泰成が凄すぎた…7連敗後9回16K・1BB・0失点【投手版・近本】(本記事は、この動画のために作成した資料一式(作成日2026年10月4日)をもとに構成しています)。
※指標は保存日時点のシーズン累積値です。保存日の間の差を、その間の試合だけの効果としては扱っていません。前日登板あり/なしの比較、9月17日〜10月1日・8月19日〜10月1日などの期間成績は、上記をもとにした集計値です。