2回外した阪神は本当に負け組?NPBドラフトくじ66抽選をWARで徹底検証
30秒で分かる、ドラフトくじの当落と5年後
- 01「外した方が得」ではない
平均WARでも成功率でも、今回試したすべての基準で当選側が一貫して上だった。
- 02近本・村上・山田は「例外」
外れ側の巨大逆転は確かに存在する。ただし全件を残して集計すると、平均でも中央値でも当選側優位だった。
- 031年目では差が見えない
当選側の優位は1年目はほぼゼロで、3年・5年とじわじわ広がっていく。
- 042018阪神の異常性は「着地点」
2回外したこと自体ではなく、2回外した後に近本光司という大きな差の着地点にたどり着いたことが異常だった。
対象は2008〜2023年のNPBドラフトくじ66抽選(初回抽選41件・再抽選以降25件)。主比較は初回抽選の当選選手と、外れた各球団が最終的に獲得した1位選手を、入団後固定1年・3年・5年のWARで比較したもの。2008〜2017年はNPB STATS WAR、2018〜2020年はpWARで、計算方法の異なるWAR系列は足したり同じランキングに混ぜたりしていない。WARの帰属は原則「原指名球団が直接得たNPB一軍WAR」で、移籍後の他球団WARやMLB移籍後の価値は基本評価に混ぜない。動画版では全66抽選の集計から見られる。
ドラフト会議で、くじを外した瞬間。ファンは「終わった……」と思いがちだ。でも、本当に終わっているのだろうか。
象徴的なのが2018年の阪神である。藤原恭大を指名して抽選に外れ、次に辰己涼介を指名してまた外れ、最後に近本光司を1位指名した。ドラフト当日だけ見れば「くじ2連敗」だ。ところが最初の5年間のpWARは、藤原恭大-0.9、辰己涼介13.8、近本光司25.0だった。今回は2008〜2023年のNPBドラフトくじ66抽選を追跡し、「抽選に当たった選手」と「抽選に外れた球団が最終的に獲得した1位選手」を固定期間のWARで比較する。
012018年阪神は2回外して近本を獲得した
阪神は最初に藤原恭大を指名し抽選で外れ、次に辰己涼介を指名して再び外れ、最後に近本光司を単独指名した。今回の分析は、この2018年阪神を入口に、2008〜2023年の初回抽選41件・再抽選以降25件、合計66抽選をすべて追跡している。
- 最初に藤原恭大を指名。抽選外れ5年pWAR藤原恭大 -0.9。↓
- 次に辰己涼介を指名。また抽選外れ5年pWAR辰己涼介 13.8。↓
- 最後に近本光司を1位指名。単独指名で獲得5年pWAR近本光司 25.0。↓
- 辰己を外した時点の残存候補と比べると、近本25.0が次点を23.1差で突き放す次点は清水昇1.9・甲斐野央1.2・髙橋優貴-0.3(いずれも後に実際にドラ1となった未確定選手)。
2018阪神の異常性は「2回外したこと」ではなく、「2回外した後にたどり着いた着地点」にある。
残存候補は当時選べた全選手ではなく、後に実際にドラ1となった未確定選手だけを比べた限定集合。
では、これは近本という特殊な成功例だったのだろうか。それを確かめるため、66抽選全体を集計していく。
02平均WARでは当選側が上だった
5年固定窓で比較すると、NPB STATS(2008〜2017年、比較組55)は当選平均3.67に対し外れ平均2.26(差+1.41)。pWAR(2018〜2020年、比較組21)は当選平均7.03に対し外れ平均3.41(差+3.62)。多球団競合で同じ当選選手が何度も出る影響を消すため「1抽選=1票」にしても、旧期間+1.54WAR・近年+2.22WARで方向は変わらなかった。
結論「1抽選=1票」に補正しても旧+1.54WAR・近年+2.22WARで方向は変わらない。近本のような逆転例から入ると外した方が得に見えるが、全体集計ではむしろ当選側が上だった。
5年固定窓の累積WAR。NPB STATS WARとpWARは系列が異なるため直接合算しない。
5年WAR差(外れ-当選)の中央値もNPB STATSで-0.80、pWARで-4.20とどちらもマイナス。平均だけでなく「真ん中のケース」を見ても当選側優位だった。一方で分布の右端には、近本・村上・山田のような巨大逆転が存在する。
03成功率でも当選側が上
5年累積WARで複数の成功ラインを確認しても、結果は同じだった。NPB STATS(2008〜17年)ではWAR>0が当選72.7%対外れ60.0%、WAR>1が49.1%対38.2%、WAR>2が40.0%対29.1%、WAR>5が27.3%対18.2%、WAR>10が18.2%対5.5%。平均だけでなく、今回試したすべての成功基準で当選側が上だった。
※2008〜2017年ドラフトくじ、入団後固定5年間のNPB STATS系WAR。pWAR(2018〜20年)でも同じ方向(WAR>0が当選76.2%対外れ57.1%など)を確認済みだが、系列が異なるため同一グラフには混ぜていない。
04それでも外れ側の逆転は珍しくない
少しでも上回れば逆転とすると、NPB STATSで20/55=36.4%、pWARで6/21=28.6%。0.5WAR超で明確に上回った場合でもNPB STATS17/55=30.9%、pWAR5/21=23.8%。抽選イベント単位(その抽選で外れたどこか1球団が0.5WAR超で上回る)で見ても旧9/25=36.0%、近年3/8=37.5%と、3割強の抽選で外れ側の逆転が起きている。
同年ドラ1・12人内の順位に変換しても、平均順位は当選6.35位に対し外れ7.66位、TOP3率は当選27.3%に対し外れ9.2%(2008〜2020年の5年完走対象、因果効果ではなく観察された群間差)。当選側優位は残るが、外れ側がTOP3に入る例も1割弱ある。
051年目だけでは答えが見えにくい
5年まで完成済みの同じ抽選だけを追跡すると、旧25抽選は1年+0.25→3年累積+0.72→5年累積+1.54、近年8抽選は1年-0.06→3年累積+1.11→5年累積+2.22。1年目では差がほぼ見えず、その後数年で当選側優位が表れる。ただし累積値のため「毎年差が加速した」とは言わない。
※5年まで完成済みの抽選だけを対象に、入団後の累積期間ごとにWAR差を追跡。近年8抽選の1年目は-0.06とごくわずかに外れ側が上回る。
06最大逆転は近本・村上・山田
4つのタイプに整理できる。①当選側の大勝(佐藤輝明・佐々木朗希・藤浪晋太郎)、②外れ側の大逆転(近本光司・村上宗隆・山田哲人・宮城大弥)、③双方成功(有原航平9.5対山崎康晃8.8、大瀬良大地10.3対岩貞祐太5.8、佐々木朗希14.3対小深田大翔10.1)、④双方低貢献(根尾昂-0.9対吉田輝星-0.8)。「相手より少し上だった」ことと「成功した」ことは別だ。
最大逆転はNPB STATSで清宮幸太郎→村上宗隆+22.6、斎藤佑樹→山田哲人+18.3、高橋周平→安達了一+9.2。pWARでは藤原恭大→近本光司+25.9、藤原恭大→辰己涼介+14.7、石川昂弥→宮城大弥+11.0。一方、当選側の大当たりもある。NPB STATSで藤浪晋太郎→松永昂大+12.0、松井裕樹→渡邉諒+11.1。pWARでは佐藤輝明→平内龍太+22.8、佐藤輝明→井上朋也+22.6、佐藤輝明→山下舜平大+18.0。当選5年WAR>5だった初回抽選11件では、外れ側の0.5WAR超逆転は0件だった。ただし辰己13.8→近本25.0(再抽選)という反例はある。
07村上・山田は「外れ成功」であり「再抽選当選成功」
2017年ヤクルトは清宮幸太郎の抽選に外れ、再抽選で村上宗隆を引き当てた(5年WAR22.1)。2010年ヤクルトも斎藤佑樹(外れ)→塩見貴洋(再抽選も外れ)→山田哲人(後続抽選で当選、5年WAR19.1)という経路だった。
村上・山田は「外れ成功」かつ「当選成功」
最初のくじを外して、次のくじを当てた成功例
2017年ヤクルトは清宮幸太郎の抽選に外れ、再抽選で村上宗隆を引き当てた。2010年ヤクルトも斎藤佑樹(外れ)→塩見貴洋(再抽選も外れ)→山田哲人(後続抽選で当選)という経路。どちらも「外れて成功した」だけでなく「その後のくじを当てて成功した」例でもある。
最大逆転を並べると清宮→村上+22.6、斎藤佑樹→山田+18.3(いずれもNPB STATS系)。ただし当選5年WAR>5だった初回抽選11件では外れ側の0.5WAR超逆転は0件。辰己13.8→近本25.0という再抽選の反例はあるが「外れれば逆転できる」の根拠にはならない。
「外れ1位成功=くじに価値がない」ではない。
複数回外れた場合はどうか。旧期間は1回外れ平均2.27、2回外れ平均2.69、3回外れ平均-0.07。近年は1回外れ平均2.11、2回外れ平均6.01(近本25.0・宮城13.5の影響が大きい)。2回外したら終わりではない。ただし、2回外した方が得でもない。
有名な成功例だけを後から選ぶと結論は反転する。旧期間で当選3.44に対し外れ全球団平均1.90・最良外れ4.15、近年で当選6.30に対し外れ全球団平均4.08・最良外れ7.45。山田・村上・近本・宮城だけを並べれば「外した方が得」という物語を作れるが、全件を残すと当選側優位のままだ。
082018年阪神の本当の異常性
固定5年窓は生涯評価ではない。2018組を2025年まで7年間追跡すると、藤原恭大は5年-0.9→7年5.0、辰己涼介は5年13.8→7年23.2、近本光司は5年25.0→7年35.9。近本優位は維持されるが、藤原も5年以降に数字を伸ばしている。固定5年窓は生涯評価ではなく、同じ期間で球団戦力価値を比べるための設計だ。
さらに深掘り:この結論は特定の年やWARの数え方に依存していないか
特定年だけで作られた結果ではない
2017年(山田・村上の当たり年)を除外しても当選側平均優位は残る。2010年+2017年を除外すると逆転率23.1%、当選側平均優位+3.16。山田・村上のような巨大逆転年だけで「平均では当選側有利」になっているわけではない。
近年は2020年の影響が大きい
近年5年窓は2018〜2020年の3年のみで、2018年は外れ側+3.76、2019年は当選側+3.81、2020年は当選側+13.23。2020年の影響が非常に大きく、「近年は外れ側が約29%で逆転する」を未来確率として使わない。
集計方法を変えても骨格は残る
移籍後も含むNPB全体WARで見ても-1.39(原球団-1.41)とほぼ同方向。pWAR adv.でも近年21組で方向・逆転件数が一致し、3年窓を2022年まで拡張しても当選+1.53・逆転29.6%。ただしWAR系列を混ぜて一つの平均にはしていない。
09投手抽選と野手抽選では結果の出方が違った
抽選を投手・野手別に見ると、傾向がはっきり分かれる。
結論近年(pWAR)でも投手抽選は当選8.0・外れ1.7で逆転率0%と一貫。野手抽選は当選6.4・外れ4.5・逆転率46.2%と振れが大きい。「野手は外した方が得」とは一般化しない。
旧期間はNPB STATS 2008〜17年、近年はpWAR 2018〜20年。野手抽選の当選平均は0.0付近。
出身別(旧期間5年)では高卒が当選4.05対外れ1.84、大卒が当選2.96対外れ2.99、社会人が当選6.17対外れ0.03(社会人はn=3のため一般化しない)。投手抽選の安定性に比べ、野手抽選や出身区分は振れ幅が大きい。
10競合数・単独指名・くじ運
旧期間の初回抽選当選選手の5年平均WARは、2球団競合2.31(n=12)、3球団競合3.88(n=5)、4球団以上4.88(n=8)。競合数には一定の情報価値がありそうだが、未来WARの順位表ではない。
単独指名は強かった。旧期間5年WARで初回単独6.31に対し抽選当選3.44、外れ最終1位2.26。投手では単独5.24対抽選当選5.12とほぼ同水準だが、野手では単独8.83対抽選当選-0.13と大きく開く。ただし単独になる過程は非ランダムで、「単独を狙う戦略が優秀」とは言えない。2008〜2017年の10年間、各年のドラ1・12人内での年間トップは初回単独7年・初回外れ球団の最終1位3年・初回抽選当選0年だった。ただし近年には反例があり、2019年の佐々木朗希と2020年の佐藤輝明は初回抽選当選でその年のドラ1トップだった。
1112球団の「くじ運」
競合数から算出した期待当選数と実際の当選数を比べると、球団ごとに差がある。
| 球団 | 期待当選数との差 |
|---|---|
| ロッテ | +3.12 |
| 西武 | +2.75 |
| 中日 | +2.55 |
| 楽天 | +1.24 |
| DeNA/横浜 | +0.60 |
| 日本ハム | +0.09 |
| 広島 | -0.15 |
| ソフトバンク | -1.04 |
| 巨人 | -1.71 |
| 阪神 | -2.14 |
| ヤクルト | -2.23 |
| オリックス | -3.08 |
競合数から算出した期待当選数との差(2008〜2023年)。オリックスは11回抽選して1勝。くじ運の強さと最終1位の5年後成績の相関はr≈0.05〜0.08で明確な直線関係は確認できなかった。
阪神は-2.14と下振れ側で、2018年の2連敗もこの傾向に沿う。ただしくじ運の強さと最終1位の5年後成績には、今回の12球団比較では明確な相関は確認できなかった(r≈0.05〜0.08、無関係の証明ではなく12球団の集約値による補助分析)。
122022年阪神・浅野→森下は現在進行形
2022年の阪神も、浅野翔吾の抽選に外れ、森下翔太を最終1位で獲得している。2023〜2025年の3年pWARは浅野-0.7に対し森下12.8(差+13.5)。ただしこれは5年未完の3年時点の途中経過であり、2018年の近本のような「5年逆転」として扱わない。
13結論:くじは有利不利を作るが、最終1位の成否までは決めない
今回の比較では、「当選側には平均優位が見えた」。平均WARも成功率でも、当選側が一貫して上だった。しかし「最終1位の成否までは決まらない」。近本、村上、山田、宮城のような巨大逆転も確かに存在する。そして村上や山田は、「最初のくじを外して成功した選手」であると同時に、「その後のくじを当てた成功例」でもある。
2018年阪神の本当の面白さも、2回外したことそのものではない。2回外したあと、最終的に近本光司へたどり着いたことだ。ドラフト当日の評価と、5年後の答え合わせは、同じではない。だからこそドラフトは面白い。
14評価の限界
「外れた方が得」── 違う。今回のすべての成功基準・観測期間で当選側が平均優位だった。近本・村上・山田は例外であり標準ではない。
「外れ1位は将来30%で逆転する」── 言いすぎ。今回観察された完成5年窓での逆転率であり、年代による振れが大きいため将来確率としては使えない。
「野手は外した方がいい」── 違う。野手抽選は振れが大きいだけで、平均では当選側が上(近年pWARで当選6.4対外れ4.5)。
「阪神は近本の未来を予測していた」── 言えない。抽選は運であり、外れたこと自体を意思決定の成功として扱わない。後知恵で未来を予測していたと解釈しない。
「くじ運の強い球団は将来も強い」── 決まらない。12球団比較での相関はr≈0.05〜0.08で、明確な直線関係は確認できなかった。
15動画・次回予告・関連記事
今回66抽選を追って分かったのは、「くじに当たる意味はある。でも、くじだけでドラフト1位の成功までは決まらない」ということだった。平均WARも成功率も当選側が上。一方で、近本・村上・山田・宮城のような巨大逆転も存在する。2018年阪神の本当の面白さは、2回外したことそのものではなく、2回外したあと最終的に近本光司へたどり着いたことにある。
- 🎥 動画版:NPBドラフトくじ徹底検証(YouTube)。2018年阪神の藤原→辰己→近本から入り、全66抽選の集計、最大逆転、投手・野手別、12球団のくじ運までスライドで見ていく。
- 📚 特集ページ:NPBドラフト 分析特集。ドラフトの通説をテーマごとにデータで検証する記事をまとめている。
- 📄 関連記事:NPB12球団、本当にドラフトが上手い球団はどこ?1203人のWARで徹底検証
- 📄 関連記事:ドラ1は野手が正解?NPB1203人のWARで検証したら「同評価なら投手先」が見えた
16SOURCES / 参照データ
- NPBドラフト_WAR分析パネル(2025公式突合最終版):66抽選の指名・抽選結果と、入団後固定1〜5年間のWAR集計。
- NPB STATS系WAR(2009〜2024):主系列。2008〜2017年抽選の固定期間WAR比較に使用。
- ぼーのの日記(2019〜2025)pWAR:補助系列。2018〜2020年抽選の集計に使用し、主系列とは混ぜていない。
- NPB選手名 aliasマスター:選手名の表記ゆれの名寄せに使用。
- NPB公式ドラフト記録:抽選履歴の確認に使用。
- 動画版:NPBドラフトくじ徹底検証(本記事の分析軸の出典)。
※異なるWAR系列は足したり同じランキングに混ぜたりしていません。WARの帰属は原則「原指名球団が直接得たNPB一軍WAR」で、移籍後の他球団WAR・MLB移籍後価値は基本評価に混ぜていません。本記事は「最終1位の答え合わせ」が中心で、2位以下まで含めたドラフト全体の勝敗を評価したものではありません。