阪神2-1ヤクルト|近本が復帰初戦でサヨナラ生還 工藤163.2km/h、伊藤将司7回無失点
今日の勝利で最も大きかったのは、近本光司が復帰したことだけではありません。復帰初戦の最終打席で、速くて制球の荒れていたリランソの153.4km/hを中前ライナーにし、その後は二塁からサヨナラのホームまで走り切ったことです。打撃、走塁、実戦感覚の三つを一度に確認できました。近本が戻ることで中野拓夢を2番、森下翔太を3番に置きやすくなり、実際に9回は近本が出塁し、中野が四球でつなぎ、森下の打球で試合が終わりました。工藤泰成は8回無死満塁という一点も許されない場面で163.2km/hを計測し、セデーニョとサンタナを連続三振。伊藤将司は中29日にもかかわらず7回を無失点に抑え、直球系を75.0%使って押し込みました。近本が不在でも首位を守った阪神に、打順・守備・走塁の基準となる選手が戻り、その復帰初戦を劇的な形で勝てたことは、今後の再加速を期待させる出来事でした。
近本光司が帰ってきました。4月26日の広島戦で左手首に死球を受けて骨折と診断されてから76日。7月11日のヤクルト戦で「1番・中堅」として一軍復帰すると、同点の9回に153.4km/hの直球を中前へ打ち返し、最後はサヨナラのホームを踏みました。阪神は2-1で今季3度目のサヨナラ勝ち。近本が戻った日に、近本が打って、近本が走って勝った試合でした。ただし、今日の主役は一人ではありません。佐藤輝明は子どもたちを招待した試合で先制の17号本塁打、伊藤将司は異例の中29日で7回無失点、工藤泰成は1点差の8回に無死満塁を背負いながら163.2km/hを記録し、ヤクルトの中軸を連続三振に仕留めました。前の試合は 阪神1-2ヤクルト|下村海翔は自責1でも勝てず 5回の守備崩壊と14三振をデータで検証 をどうぞ。
01近本が帰ってきた日に、近本が勝利のホームを踏んだ
| 回 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | 安 | 失 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 阪神 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1x | 2 | 5 | 1 |
| ヤクルト | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 6 | 1 |
甲子園 / 試合時間3時間7分 / 入場者42,641人 / 勝:ドリス(2勝2敗12セーブ) / 敗:リランソ(1勝1敗) / 本塁打:佐藤輝明17号ソロ
阪神がヤクルトに2-1でサヨナラ勝ちしました。この試合を特別な一戦にしたのは、76日ぶりに一軍へ戻った近本光司です。近本は4月26日の広島戦で左手首に死球を受け、骨折と診断されました。翌日に登録を抹消され、5月1日からリハビリを開始。6月下旬に本格的な打撃練習へ入り、7月7日に二軍戦で実戦復帰しました。二軍では3試合に出場し、実戦復帰後10打席目で初安打。数字だけを見れば、まだ一軍の速球へ対応できるか不安は残っていました。しかし、復帰初戦の9回に、その不安を大きく減らす一打が出ます。
ヤクルトのリランソはフォーシーム率85.7%、平均152.9km/h、最速156.4km/h。速いうえに制球が荒れており、打者にはボール球を見極めながら、ストライクへ来た速球を逃さない対応が求められました。近本は3ボール1ストライクまで待ち、5球目の153.4km/hを中前へ打ち返しました。打球速度も153.4km/h、角度15度のライナー。甘い遅い球を拾ったのではなく、復帰初戦で150km/hを大きく超える直球をしっかり捉えました。その後、中野の四球で二塁へ進み、森下の左前打と相手失策で一気に本塁へ生還。打てた、走れた、そして勝った。復帰戦として、これ以上ない出だしでした。
02近本の4打席は、試合の中で内容が良くなった
| 打席 | 結果 | 打球速度 | 角度 |
|---|---|---|---|
| 第1打席 | 一ゴロ | 101.9km/h | -24度 |
| 第2打席 | 右飛 | 154.0km/h | 45度 |
| 第3打席 | 空振り三振 | — | — |
| 第4打席 | 中前打 | 153.4km/h | 15度 |
近本の第1打席は、打球速度101.9km/h、角度-24度の一ゴロ。まだ一軍の球へタイミングを合わせているような打球でした。第2打席は右飛でしたが、打球速度は154.0km/h。角度45度で上がりすぎたものの、手首をかばわず強く振れていました。第3打席は空振り三振。そして第4打席に、153.4km/hを角度15度の中前ライナー。弱いゴロ、強いが上がりすぎた飛球、三振を経て、最後に理想的なライナーへ修正したことが大きな意味を持ちます。単に1安打が出たのではなく、試合の中で打球内容が向上したこと自体が復帰初戦の収穫でした。安打後は二塁へ進み、本塁まで走り切っており、復帰初戦としては数字以上に内容の良い4打席でした。
03近本不在でも首位を守った阪神、しかし勝つペースは落ちていた
| 期間 | 試合 | 成績 | 勝率 |
|---|---|---|---|
| 開幕〜4月26日(近本在籍) | 24 | 15勝8敗1分 | .652 |
| 4月28日〜7月10日(近本不在) | 53 | 26勝27敗 | .491 |
近本が離脱する4月26日まで、阪神は15勝8敗1分、勝率.652でした。近本不在の4月28日から7月10日までは26勝27敗、勝率.491。大崩れはせず単独首位を守りましたが、離脱前より明確にペースは低下しています。代役の選手が経験を積み、チーム全体で耐えた期間だったことは間違いありません。ただ、近本が戻ることで、1番、中堅、走塁の基準が一度に戻ります。9回の「近本が出る、中野がつなぐ、森下が打つ」という形は、阪神が待っていた上位打線の姿でした。7月11日の勝利後、阪神は42勝35敗1分で単独首位を維持しています。
04工藤が無死満塁で163.2km/h 速いだけではない6球
8回、工藤泰成は無死満塁のピンチを背負いました。先頭の中村悠平への中前打、代打塩見の打球を佐藤が処理できなかった失策、内山壮真への四球。犠牲フライでも同点になる状況でした。工藤は岩田幸宏を投ゴロで本塁封殺。続くセデーニョを空振り三振に取り、二死満塁で4番サンタナを迎えます。
| 球 | 球種 | 球速 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1球目 | フォーシーム | 163.2km/h | 見逃しストライク |
| 2球目 | フォーシーム | 161.6km/h | ボール |
| 3球目 | カットボール | 144.8km/h | 空振り |
| 4球目 | フォーシーム | 162.1km/h | ボール |
| 5球目 | カットボール | 144.5km/h | ファウル |
| 6球目 | フォーシーム | 161.7km/h | 空振り三振 |
初球は163.2km/h。球団最速タイの一球で、記録上は日本人選手としての最速を更新する数値でした。ただし、工藤の価値は球速表示だけではありません。163.2km/hで見逃しストライクを取り、161.6km/hの直球、144.8km/hのカット、162.1km/hの直球、144.5km/hのカットと続け、最後は161.7km/hで空振り三振。160km/h台と144km/h台を交互に使い、サンタナのタイミングを破壊しました。フォーシーム12球の平均は160.6km/h。163.2km/hは一球だけの偶然ではありません。しかも最後の161.7km/hは、このイニング24球目。走者を背負い精神的にも消耗した後で、まだ161km/hを超えていました。藤川監督が「ぞわぞわっとした」と表現したのも納得できます。ただし、先頭打者に安打を許し、四球も出したのは工藤自身の責任であり、無死満塁は味方の失策だけで作られたピンチではありません。今日の一イニングだけで勝ちパターンや守護神と断定するのは早く、「完成」ではなく「壁を越えた可能性」として評価するのが適切です。
05工藤を支えた梅野の仕事
工藤が無死満塁で腕を振れた背景には、梅野隆太郎の存在があります。160km/hを超える直球と、144km/h台で鋭く動くカット。満塁で後ろへそらせば、その瞬間に同点になる状況で、梅野は荒れる球を止め続けました。伊藤とのコンビでは7回無失点。打撃でも第1打席に中越え二塁打を放ち、打球速度160.9km/h、飛距離120.7m、角度25度と、球場や風向きによっては本塁打になっても不思議ではない質の打球でした。工藤の163.2km/hが最も目立ちますが、その剛球を受けワンバウンドを止めた梅野も、無死満塁脱出の重要人物でした。
06伊藤将司は直球系75%で押し込んだ
伊藤将司は前回登板が6月11日。雨天中止などで4度にわたって先発機会が流れ、出場選手登録されたまま異例の中29日で登板しました。初回は先頭の内山に二塁打を許し、二死一、三塁まで進められましたが、増田珠を右飛に抑えて無失点。5回には長岡秀樹に二塁打、6回には二死三塁でサンタナと、複数回にわたり得点圏へ走者を置きながら、最後の一本を許しませんでした。7回は11球で三者凡退。7回92球、被安打3、奪三振6、与四球2、失点0で降板しています。
| 球種 | 球数 | 割合 |
|---|---|---|
| フォーシーム | 45球 | 48.9% |
| ツーシーム | 24球 | 26.1% |
| カットボール | 11球 | 12.0% |
| スライダー | 9球 | 9.8% |
| チェンジアップ | 2球 | 2.2% |
| カーブ | 1球 | 1.1% |
フォーシームとツーシームの合計は69球、全92球の75.0%。伊藤は変化球でかわしたのではなく、4球に3球の割合で直球系を使いました。藤川監督が「ストレートが走っていた」「相手を押し込んでいるように見えた」と評価した内容が、球種割合にも表れています。カットボールとスライダーは合計20球、チェンジアップとカーブは計3球だけ。大きな緩急よりも、フォーシーム、ツーシーム、カット、スライダーで似た速度帯の中で横方向や沈み方を変え、芯を外しました。
| 回 | 最速 | 平均 |
|---|---|---|
| 1回 | 144.8km/h | 141.6km/h |
| 2回 | 143.2km/h | 138.9km/h |
| 3回 | 141.9km/h | 138.4km/h |
| 4回 | 143.1km/h | 138.5km/h |
| 5回 | 142.9km/h | 138.7km/h |
| 6回 | 143.2km/h | 141.0km/h |
| 7回 | 141.6km/h | 139.1km/h |
6回は20球を要し、二死三塁でサンタナを迎えた勝負どころでした。中盤は平均138km/h台だったフォーシームが、この回は平均141.0km/hまで上昇。常に最大出力で投げるのではなく、危険な場面で出力を上げたように見えます。勝負どころで出力を上げ、最後は見逃し三振。9回に追いつかれて勝ち星は消えましたが、投球内容には文句をつけようがありません。
07佐藤の17号は、試合と未来へつながる一発
2回、佐藤輝明が松本健吾の初球カーブを右翼席へ運びました。報道値で打球速度約169km/h、飛距離約117m。今季17号、6月28日の広島戦以来9試合37打席ぶりで、7月初の本塁打でした。この日は西宮市内の少年野球6チームを甲子園へ招待。佐藤は2025年7月26日のDeNA戦でも、西宮の少年少女を招待した試合で26号本塁打を放っており、招待試合で再び本塁打を見せたことになります。阪神に先制点をもたらし、好投する松本の数少ない隙を一振りで仕留め、招待された子どもたちに強烈な記憶を残しました。一方で8回には失策があり、工藤の無死満塁につながる大きなミスにもなっています。本塁打の価値と、守備の反省点は分けて扱う必要があります。
なお7回裏には、森下の出塁後に佐藤が遊ゴロ併殺。打球速度161.7km/h、角度1度で、弱い当たりではなく強い打球が低い角度で遊撃手正面付近へ飛んだ結果でした。打撃状態が悪かったと断定できる打球ではありませんが、追加点が欲しい場面で走者を消した事実は重く残ります。
08森下は今季3度のサヨナラ勝ちすべてに関与
9回、森下の左前打を左翼の山野辺翔が処理できず、近本が生還しました。公式記録は森下の安打と山野辺の失策。森下に打点はついておらず、「サヨナラ適時打」ではありません。正確には「森下の打球がサヨナラ勝ちを生んだ」という表現が適切です。
| 日付 | 相手 | 結果 | 決着 |
|---|---|---|---|
| 5月20日 | 中日 | 阪神8-7 | 森下11号サヨナラ本塁打 |
| 6月30日 | 中日 | 阪神3-2(延長10回) | 森下19号サヨナラ本塁打 |
| 7月11日 | ヤクルト | 阪神2-1 | 森下の左前打+相手失策 |
阪神の今季のサヨナラ勝ちは3度。その3試合すべてで、森下の打球が試合の決着に関わっています。この日も4打数2安打。第1打席は174.5km/hの左直、第2打席も160.6km/hの遊ゴロと、凡退した打席を含めて一日を通して内容が良い打者でした。森下は6月度の「スカパー!サヨナラ賞」を受賞した直後で、勝負どころでの存在感がさらに強まっています。
09勝ったからこそ、残った課題も確認したい
| 打順 | 打数 | 安打 |
|---|---|---|
| 1〜4番 | — | 4 |
| 5〜7番(大山・前川・熊谷) | 9 | 0 |
阪神は5安打2得点、ヤクルトの6安打を下回りました。5番から7番の大山悠輔、前川右京、熊谷敬宥は合計9打数無安打。大山は第2打席に169.9km/hの中直、前川は第3打席に171.7km/hの強い打球がありましたが、いずれも得点にはつながりませんでした。3回の無死二塁を逃し、7回は無死一塁から佐藤が併殺。9回は髙寺望夢が死球で出た直後に盗塁死しており、近本、中野、森下へ回る前に走者を失った判断は検証の余地があります。ドリスも9回に同点を許しました。無死一、三塁から併殺を取って逆転は防ぎましたが、逃げ切りには失敗しています。完璧な勝利ではありません。それでも、追いつかれた直後に本来の上位打線でもう一度勝利を取り戻したところに、この一勝の強さがあります。
10反対意見・別視点
「近本復帰の精神的効果を大きく語りすぎではないか」── 精神的効果は客観的な数値では証明できません。「近本が戻ったからチームが落ち着いた」と断定するのではなく、1番打者・中堅手・走塁の基準が戻り打順と守備配置を整理しやすくなった、という具体的な変化として見立てる方が正確です。
「工藤は自分で満塁を作っただけではないか」── 先頭安打と四球は工藤自身の責任で、味方の失策だけで作られたピンチではありません。安定感には課題が残りますが、一点も許されない無死満塁から中軸を連続三振にした事実は大きく評価できます。
「森下はサヨナラ打を打ったわけではない」── その通りです。公式記録は左前打と左翼手の失策で、森下に打点はありません。「森下の打球が今季3度目のサヨナラ勝ちを生んだ」が正確な表現です。
「打線は5安打しか打っていない」── 打線全体が復調したとは言えません。5番から7番は無安打でした。ただし森下・大山・前川には強い打球があり、相手先発の松本健吾が7回3安打無四球と良かったことも考慮する必要があります。
11今後の注目点
- 近本。連戦で左手首に問題が出ないか。150km/h超の速球へ継続して対応できるか。中堅で連日フル出場できるか。近本・中野・森下の並びが継続して機能するか。
- 工藤。次の登板でも160km/h台を維持できるか。先頭打者を出さず三者凡退を作れるか。四球を減らし、本格的に勝ちパターンへ入れるか。
- 伊藤将司。次回も直球系で押し込めるか。登板間隔が通常へ戻った時の状態と、梅野とのコンビネーション。
- 打線。近本の出塁を複数得点へつなげられるか。大山・前川の強い打球が結果へ変わるか。5番以降が得点へ関われるか。
- 継投。ドリスの9回起用を継続するか。工藤の役割が上がるか。岩崎・桐敷らを含めた終盤の役割再編。
12まとめ ── 近本が戻り、阪神は再加速のきっかけをつかんだ
近本が戻りました。そして、戻ったその日に打ち、走り、勝利のホームを踏みました。伊藤将司が7回を無失点で支え、工藤泰成が無死満塁で163.2km/hを投げました。佐藤輝明は子どもたちの前で本塁打を放ち、森下翔太はまたも試合の決着を生む打球を放っています。追加点を取れない打線、佐藤の失策、ドリスの失点、髙寺の盗塁死。課題は残りました。それでも、9回に追いつかれた直後、近本、中野、森下で勝利を取り返しています。
近本がいない間も阪神は首位で耐えました。その阪神に、チームの基準となる選手が帰ってきました。5番以降のつながり、守備のミス、終盤の継投、走塁判断。改善すべき点は残っています。しかし、近本が1番と中堅へ戻り、中野・森下・佐藤を本来の打順へ並べやすくなったことは大きな変化です。この一勝が本当の再加速の始まりになるのか。今日の勝利は答えではありません。ただ、阪神がここからもう一度勢いを取り戻すのではないか。そう思わせるには十分な一勝でした。明日以降は、近本の状態だけでなく、阪神全体が今日の勝利をどう次へつなげるかに注目したいところです。
13動画でも詳しく話しています
試合全体の流れや、工藤の無死満塁での配球、近本の復帰初戦の打席内容については、動画でも詳しく振り返っています。